癌治療費半減を狙ったニクソン大統領に反して治療費はますます増長。もうこれ以上は医療に頼れないと始めたのがアメリカの「食事革命」でした

 
癌が減少傾向になったアメリカ
非営利団体のアメリカ癌協会がアメリカの癌発症・死亡数の推計を発表した。これによると、アメリカでは今年165万人が新たに癌と診断(全国民の0.47%/日本では0.83%)され58万人が癌で死亡(全国民の0.17%/日本では0.3%)すると推定された。
アメリカでは2007年~11年の5年間で新たに癌と診断された男性数は毎年1.8%減少し、女性は横ばい状態が続いている。
死亡率は男性毎年1.8%、女性1.4%も減少している。
これに対し、アメリカ癌協会のチーフ・オフィサーを勤めるジョン・セフリン博士は予防医学の成果を次のように述べた。
「癌の罹患率・死亡率は減少傾向にあり喜ぶべきことだが、癌との戦いはまだまだ続いている」
大成功した食事革命
アメリカで食事革命が始まったのは、1972年に施行された「アメリカがん対策法」がきっかけである。
当時のアメリカは日本と同様に、死亡原因の第1位は悪性新生物(癌)だった。そこでニクソン大統領が癌による死亡率を半減しようと、アポロ計画を削減して癌治療技術の改善に予算を投じたが、癌は減少するどころかますます増加して、1977年にはその治療費が当時の日本円で25兆円(日本は現在15兆円)にも達して、アメリカ経済が破綻しかねない状況になっていた。
その当時の大統領だったフォード氏は、治療より予防対策に重きを置く方針転換をして、副大統領のジョージ・マクガバン上院議員を委員長とする栄養問題特別委員会を設置。医師・薬学研究者など3000人ものスタッフを集め200億円の巨費を投じ、2年間かけて調査した結果を5000ページにものぼる「マクガバン・レポート」に纏めて、議会上院で発表したのである

 
今から50年も前のアメリカだから、食品添加物など化学成分の入った食事は希だった。これら食品添加物の加工品が広がったのは1980年代。スーパーマーケットが主流になって冷凍食品や冷蔵加工品がショーケースで販売されるようになってからである。このことを念頭に当時のフーズ・イノベイションを検証してほしい。

世界初のフード・イノベイション
慢性病とは、肉食中心の誤った食生活がもたらした食原病であって、医薬では治らない。食事については、ビタミン、ミネラルの特にカルシウム、鉄、ビタミンABCEの不足がひどく典型的な若年死の食事である。

7項目の食事改善の指針
(1) 主食は全粒穀物
(未精製・未精白穀物)
(2) 豆類を食べる
(3) 野菜を多食し野菜は生食
(4) 海藻を食べる
(5) 魚介類を食べる
(6) 乳製品・卵は控える
(動物性食品)
(7) 獣肉食は控える、避ける
高カロリー高脂肪の食品、つまり肉や乳製品、卵といった動物性食品を減らす。できるだけ精製しない穀物や野菜果物を多く摂る。さらに委員の1人でもある精神科医のレーザー博士は「精神分裂病(統合失調症)の原因はジャンクフーズ病(高カロリー低栄養食)にある」とまで言いきった。


癌にならないための6大目標
①炭水化物の比率を55~60%に増やす
②現在40%の脂質を30%に減らす
③飽和脂肪酸を10%減、多価不飽和脂肪酸10%
④コレステロールを1日300mg以下に
⑤砂糖を15g/日に減らす
⑥塩分を3g/日に減らす
合衆国立がん研究所(NCI)報告
栄養問題特別委員会は1990年、NCIに対して食事と癌との関係を調査するように依頼した。そのレポートで特に注目されるのは次の事項である。


タンパク質と癌の関係
動物性タンパク質の摂取量が増えると乳癌、子宮内膜癌、前立腺癌、結腸・直腸癌、膵癌、胃癌などの発生率が高まる。これまでの西洋風な食事では、脂肪とタンパク摂取量との相乗関係が有り、結果的に癌が発生しやすい体質ができる。

革命に反対した巨大勢力
革命(イノベイション)には、当然のように痛みが伴うものである。アメリカでも、このマグガバン・レポートに対して全国の利益団体が猛反発、そして激しいパッシングを受けることとなる。
①「今の医学では病気は治せない」
→全米医学会、製薬業界から非難。
②「肉食中心の食生活では健康を維持できない」
→全米畜産業界から非難。
③「砂糖が病原食材」
→製糖業界から非難。
 
反対勢力の大攻勢により、残念ながらマクガバン氏は次の副大統領選に落選。しかしこれ以降、アメリカ心臓協会やアメリカ国立癌研究所などは、食と健康についての意見を正々堂々と発表するようになった。マクガバン氏と「食事革命」によって、アメリカは救われたのである。


 

 
日本ではどうだろうか?
日本に眼を転じてみよう。日本の医学部では栄養学を殆ど学ばない。何故なら「食事で病気が治るなら医者は不要だ」という考え方が基本にあるからである。ところがアメリカでは「分子矯正栄養学」が進んでおり医学部でもこれを学ぶが、マクガバン以前にはアメリカの医学部でも栄養学を必須科目にしている大学はなかったという。


 

マクガバン・レポートではこの事実を「従来医学は栄養に盲目であり、偏った片目の医学」だと指摘した。
この例から見て、日本でも予防医学や栄養学にも力を入れるべきなのだが、医学会の認識と現状では、残念ながらまだまだ先の話しであり、アメリカ合衆国に比べると、日本は50年以上も遅れている。



 

Return